はじめに

ここに収めたのは、古文や短歌に縁のなかった私が、自然を主題としてやまとことばだけで(音読みの言葉を使わずに)詠んだ二百首ほどのやまとうたです。

この本は、歌集として普通に読んで下さっても構いませんが、古文に馴染みのない人には特に(馴染みのある人にも勿論)、まず歌を朗読されることをお勧めします。

要領としては歌の内容や言葉の意味をあまり考えずに、五・七五・七七の間合いや言葉のリズム、音の流れ(この三つはことばが「舞いを舞う」で大切な要素です)を意識する感じです。節を付ける必要はありません。声に出しにくい時は、心の中で読み上げるのも良いでしょう。

初めは、和歌独特の言葉使いや上代語(奈良時代の言葉)の響きに違和感を覚えるかも知れませんが、そんな時は少し時間を置いて、どこか知らない国の言葉のつもりで何度か読み上げてみて下さい。「この響き、悪くないな」と感じてきたら、もうあなたの耳は和歌の音の世界に片足を踏み入れている筈です。

さて、あとがきでも述べているように、私の歌は自然発生的に出来たもので、人に見せることを前提として作られていません。そのため、古語を多用していたり、掛詞や地名が入っていたり、一般の人には馴染みのうすい樹木や草花が出てきたりして、歌の本文だけ読んでも意味の解りにくい歌が少なからずあります(どうか、ここで本を閉じてしまわないで下さい)。

そうした歌を理解する為の手助けとして、巻末に註釈を収めました。「この歌はどんな意味だろう」と興味が沸いたら、ぜひ註釈で歌の内容を確かめてみて下さい。この本の歌は、現代語に直してみれば解釈や読み込みの必要のない、シンプルで易しい内容のものがほとんどです。

「註釈がないと解らないなんて、面倒くさい」、そうかも知れません。しかし、和歌は歌として始まった筈です。解りにくさや伝えにくさを内包しながらも和歌が歌われ受け継がれてきたのは、和歌の持つ音楽性・呪詞性ゆえに他なりません。

 

旋律のない音の雨をどのように感じるかは、あなた次第です。どうぞ、ことばが持つもうひとつの世界の扉を開いてください。